ボーフムと言えばヘルベルト・グレーネマイヤーというロック歌手の「ボーフム」と「カレーソーセージ」という歌が有名で、めぎたちは本来の目的の前にカレーソーセージを食べに行った。
これがカレーソーセージ。グリルした太めのソーセージを細かく切って、カレー&ケチャップ味のソースとマヨネーズをかけたもの。一つはそれに玉ねぎのみじん切りが乗っている。フライドポテトもついている。それにコーラを飲むのがグレーネマイヤーの歌詞に出てくるボーフムのカレーソーセージなので、めぎたちもそうした。
味はまあまあ。でも、ここでカレーソーセージを食べることに意義があるのだ。曲を聞いてみたい方は、グレーネマイヤーの「ボーフム」はこちらで、「カレーソーセージ」はこちら。どちらもルール(工業地帯)地方の方言と発音のドイツ語で、標準ドイツ語で予測しても何のことやらわからない。が、ただ聞いているだけでもかなりカッコいい曲だ。特にカレーソーセージの方はピアノだけの伴奏で、凄く洒落ている。ドイツでは誰でも知っている有名な歌。
さて、腹ごしらえしたところでボーフムの本当の目的地へ。
藤田真央というピアニストのコンサートである。
おとさんのブログで藤田真央のコンサートの話を読んでから、いつかこのピアニストのコンサートを聞きに行けたらいいなと思っていた。そうしたら他でもない今年の夏のザルツブルク音楽祭に出るのだけど、彼の出番の日は8月末で、めぎの住む州ではもう新年度が始まって夏休みが終わってて、平日のその日はザルツブルクに行くことも不可能でどうにも見ることができない。残念だな~と思っていたら、 Klavier-Festival Ruhr(ピアノ・フェスティバル・ルール)という催しで5月25日にボーフムでコンサートがあるというのを知り、おお~これだ!とチケットを購入したのだ。プログラムが結構好みだったので、うちのドイツ人もついてきた。ボーフムに住む友人も誘い(久々に会えて楽しかった♪)、3人でコンサート会場へ。会場は教会を建て替えたところ。
この Klavier-Festival Ruhrってめぎは存在を全然知らなかったのだが、1988年からあるイベントのようで、2025年は5月10日から7月16日まで開催。そんな長丁場な期間ずっと、ほぼ毎日ルール地方のどこかの町(デュッセルドルフ、ボーフム、ドルトムント、ヴッパータール、エッセン等々)でピアノのコンサートをやっているという贅沢なフェス。しかも出演者の中にはソンジン・チョ、アルゲリッチ、シフ、キッシン、イゴール・レヴィット、ユジャ・ワン…と有名どころが並び、あのCateenこと角野隼斗も出る。ピアノ・フェスなのでリサイタルが多いが、室内楽のコンサートも結構あるし、今回の藤田真央はオケとのコンサート。
そうそう、めぎは藤田真央「さん」とは書かない。アルゲリッチやキッシンを「さん」付きで書いてないのと同じ感覚。
会場は空席が結構目立った。でも、ボーフムで開かれるクラシックコンサートにしてはかなり入っているとも言えるのかも。
曲はまずオーケストラの作品で、アナトーリ・リャードフという作曲家の「バーバ・ヤーガ」というホンの3分の曲。その3分の中になかなか面白い音がぎゅぎゅっと詰まっている。ここから先のYouTube動画は、めぎが予習に聞いたもの。なので、オケも指揮者も今回聞いたコンサートとは全く別。曲の参考にどうぞ。
ボーフム・シンフォニカ―などと言う今まで聞いたこともなかった地元のオーケストラの演奏なので、全く期待せずに行ったのだが、なんと1919年に設立されたという歴史あるオーケストラで、なかなかにうまくてどこから見ても(聞いても)プロの演奏。もちろんウィーンフィルやベルリンフィルとはリーガが違うけど、彼らがたまにチャランチャランと「今日の仕事をこなす」だけの演奏をするのに比べたらずっと心のこもった真剣な演奏だし、ただ音符を拾っているのではなくキッチリ解釈してて、デュッセルドルフやケルンのオーケストラと比べて遜色ない。ドイツの音楽界の裾野の広さと質の高さを再確認。
3分の優れたアイドリングの後は待ってましたの藤田真央のピアノとオーケストラで、エルンスト・フォン・ドホナーニという作曲家の「童謡(きらきら星)の主題による変奏曲」。この作曲家の名前はめぎは全く知らなかったが、フォン・ドホナーニというのはドイツでは有名な一家で、音楽家のみならず政治家や俳優も輩出している。ハンブルクオペラ座の監督だったかを務めた人もいて、そこで長いこと子役やちょい役のアルバイトをしていたうちのドイツ人がかつてよくエレベーターで出会っていたなどと言っていた。下のは予習に聞いた動画なので、藤田真央が弾いている映像ではない。曲を知りたい方はどうぞ。
藤田真央の演奏は、オーケストラと会話している様子で、とても親しみが持てた。音楽をきちんと聴きながら、オーケストラときちんと対話しながら楽しそうに弾いているなあという感じ。音が軽やか。曲自体はサラッと聞き流すこともできる一般受けする内容で、歴代のいろんな作曲家を真似して作った感じの作品。
休憩をはさみ、いよいよモーツァルトのピアノ協奏曲25番ハ長調。映像は内田光子の演奏。
めぎもうちのドイツ人もこの協奏曲はモーツァルトの中ではそれほど好きな作品ではないのだが、藤田真央はモーツァルト弾きとしてブレイクしたピアニストなので、その協奏曲を聴けるというのはまたとない機会。身を入れてしっかり聞いた。スタインウェイでモーツァルトを弾くことの是非の議論はまあ置いといて、藤田真央のモーツァルトの演奏はスタインウェイではないかのような音色。古楽器を意識しているのかな。それに、何度も同じことを言うが、本当に音が軽やか。ふわふわ引いているように見えるのに音がきちんと立って聞こえ、でも柔らかい音。とっても楽しそう。自分の腕を見せびらかす演奏ではなく、音楽をきちんと感じて楽しんで弾いているという感じがいいな。そもそもこの選曲の時点で、アンサンブルをするという方向の主旨なのだろう。多少のミスタッチも生演奏の醍醐味の一部という感じで十分納得できるレベルで、それよりも軽やかで瑞々しい演奏の様子が好印象。歩き方とか身のこなしとかは子どもっぽくて、失礼ながら彼はピアノ以外何もできないんだろうなあっていう印象が残るわね。まあそれも彼のショービジネスの一部なんだろうな。ピアノはもちろんオケの演奏も引けを取らず素晴らしく、めぎたちは今回の生演奏をとても楽しめた。藤田真央の出番はここで終わるので、アンコールに一曲何かを引いたのだが、めぎの知らない曲。ロマン派のとても静かな曲だった。フェスティバル側から何か御礼のお土産をもらっていたのを写したのだけど、ぶれちゃった…
そう言えばブラボーはなかったな。温かい拍手だったけど、藤田真央の熱烈なファンがいたわけではなく、彼のピアノを聞くために来た人たちというよりは、ボーフムで行われるピアノのフェスティバルをボーフム在住のクラシックファンの人たちが見に来た、という感じだった。しかし、それもまたいいものだな。自分が主役で蝶よ花よと持ち上げられるようなコンサートばかりではなく、ピアノも楽器の一つとして音楽の一部になるようなコンサート経験を積むというのが、この若者自身の演奏をきっともっともっと深めていくのではないかな、というような気がした。そしてまた、良い席でもほんの40ユーロ程度でこんな質の高い演奏を聞ける機会が毎日毎日あるのだ、ということも、ヨーロッパって、ドイツってやっぱり凄いな、という気がした。ドイツのクラシックの裾野の広さと深さはめぎはもう充分知ったつもりでいたけれど、実はもっともっと広くてもっともっと深かったのだ。藤田真央はベルリン在住で、主にヨーロッパでコンサート活動を続けているようなのだけど、この広く深い裾野に同じようなレベルの人がごまんといる中でやっていくのはきっと大変なんじゃないかな。ボーフムのこの小さなホールを満席にできないんだものね。でも、敢えてそういう地で地味に活動するということに、きっと彼の美学と拘りがあるのだろうな。売り出し方が派手でなく、地道で本当に純粋にコンサート活動とCDレコーディングの音楽だけで勝負してて(つまりYouTubeとかビジネス経営とかをあまり駆使しない古典的な音楽家タイプ…ちなみに比較しては申し訳ないけどCateen(角野隼斗)の方はほぼ完売してるので、やっぱりYouTubeと目新しいアレンジの演奏は凄い威力)、頑張っていつか満席にできるようになってね、と凄く応援したくなる。ちなみに彼のザルツブルク音楽祭のチケットの方は地味な室内楽コンサートなのに異例の完売を遂げているのだが、これはきっと日本人(またはツアー会社?)が買い占めたのだろう。彼はこのあと日本に帰国し、5月末にN響と2夜にわたってコンサートをするのだけど、そこで弾くのはめぎが今日聞いたドホナーニの「童謡(きらきら星)の主題による変奏曲」(こちらに本人の紹介ビデオもある)。こんなマイナーな作品一曲しか弾かないのに、ネットを見てみたら、チケットは既に完売。彼は日本ではホントに有名人なのね。日本にいて日本でずっとコンサートをしていれば、たぶんずっとずっとお金が儲かるんじゃないかなと思うのだけど、ドイツでよく頑張っているわね。これからも元気で飛躍して行けますように…
そして最後に、オーケストラだけで、ストラヴィンスキーのバレエ「火の鳥」の組曲(1919年版)。
20分ちょっとのこの曲、有名だしバレエの曲だからあまりかしこまらずに聞けて、でもストラヴィンスキーだからオーケストラも打楽器もフル回転の忙しさと難しいリズムの連続。ちょうどオーケストラを見下ろす席だったので、あっち見たりこっち見たり、あああそこで準備している~おおこっちからこの音が来た~と、とても楽しめた。これは最後のカーテンコール。
指揮者の方が気を利かせてみんなに反対を向かせてくれた。
指揮者はTung-Chieh Chuangという台湾人で、ボーフム・シンフォニカ―の音楽総監督。キッチリいい仕事をしてるわね。これはトリミング。
生演奏はやっぱりいいな。日曜日の夕方から夜にかけて出かけるのは当日となるとめんどくさかったけど、行って良かったな。
この記事へのコメント
Baldhead1010
もう何十年も聞いたことがないです。
Rinko
tarou
下田公園絶景のアジサイに
コメントをありがとうございます
瓶コーラ、日本では見なくなりました。
ピアノコンサートの会場には、ステキな
ステンドグラスがありますね。
JUNKO
Inatimy
CateenはたまにYoutubeで聴きます。あと、石井琢磨とか。
なかなかコンサートまで足を運べないから、気楽に家で楽しめるその点では有り難く。
てんてん
おと
CateenのYouTubeフォロワー数は148万人なので知名度が高く、普段クラシックを聞かない人も興味を持って聞くのかも。前回のショパンコンクール2位のアレクサンダー・ガジェヴも、ロンドンのウィグモアホールの料金はお手軽で、空席もあったので、ピアニストとして世界的に成功するって、大変なことですね。。。
夢の狩人
カレーソーセージを食らいたいですね!
YAP
ドイツ人さんの子供時代の仰天エピソードがさりげなく織り込まれてますね。
日曜大工をはるかに超えた職人の腕前だったり、料理もドイツ人とは思えないほど(失礼!)の繊細さのテクを持っていたり、もう平凡な典型的日本人の私からしたら、ドイツ人さんはミステリアスすぎます。
momo
やはり楽器を使った演奏を生で聴くのはいいですよねぇ。